[第6回] マインドフルネスの方法 (3) – 連載 ”Mindfulness”

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近年、マインドフルネスとか瞑想という話題が、マスメディアなどで取り上げられるようになっています。

世界的企業であるGoogle、Yahoo、Appleなどでも、社員の福利厚生の一環としてマインドフルネスや瞑想を取り入れられています。そしてそれによって、生産性が上がったとか、社員の医療費が削減できたという報告があり、最近日本でも脚光を浴びはじめました。資本主義経済下で、世界的な経済競争により人々に余裕がなくなっていく中で、自分を取り戻す方法としてとらえられているようです。

深呼吸するビジネスマン

医学的な観点からも研究がすすめられ、人の心や体のさまざまな不調に効果があることが確かめられつつあるようです。当総合診療科でも、患者さんにマインドフルネスを紹介し、実践していただくことで、効果が出たのではないかと考えられるケースが少しずつ出ています。

そこで、マインドフルネスについて勉強中の筆者が学んだ概要を、何回かに分けて、ご紹介したいと思います。

8週間プログラム

ジョン・カバット・ジンのストレス・クリニックでは、以上で紹介した各種の瞑想を組み合わせて、「マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR: Mindfulness-Based Stress Reduction)」という8週間のプログラムを作っています。一日に45分から1時間、週に6日間の瞑想トレーニングを8週間続けるというものです。


1. 第1~2週

  • 最初の2週間は、ボディー・スキャンを行う。毎日およそ45分程度。

    眠くなるような時間帯は避け、はっきり目覚めている時間帯に行う
    眠気に襲われたときは目を開けたままで行う

  • ボディー・スキャンとは別に毎日10分程度、座って呼吸に集中する瞑想
  • 1日に一回は「普段の瞑想トレーニング」

    朝起きた時、歯を磨いているとき、シャワーを浴びているとき、体を拭いているとき、服を着ているとき、運転しているとき、ゴミを捨てる時、買い物をしているときなど、日課となっている行動のひとつひとつの瞬間に意識を向ける


2. 第3~4週

  • ボディー・スキャンとヨーガ瞑想を1日おきに行う

    ヨーガ瞑想は、自分の体の声に注意深く耳を傾けながら、身体に無理がかからない程度

  • 座って呼吸に集中する瞑想は、毎日15分から20分程度
  • 普段の瞑想トレーニング(第3週)

    毎日一回、楽しいことやうれしいことが起きたときにそれを意識して記録する

  • 普段の瞑想トレーニング(第4週)

    毎日一回、嫌だったこと、ストレスを感じたについてそれを意識し、記録する


3. 第5~6週

  • 静座瞑想法とヨーガ瞑想法を1日おきに

    静座瞑想法は1回45分。
    呼吸にだけ、あるいは呼吸以外の体の感覚、音、思いや感情に集中する

  • ヨーガができない状態の人は、ボディー・スキャンでも、歩行瞑想でも良い

4. 第7週

  • 自由な組み合わせで行う総合トレーニング

    静座瞑想法、ヨーガ瞑想法、ボディー・スキャンなどを自由に組み合わて、毎日合計45分間の総合トレーニングを行う


5. 第8週

  • 自分独自のプログラムを作る

    静座瞑想法、ヨーガ瞑想法、ボディー・スキャンのうち1つでも、組み合わせても良い
    ボディー・スキャン: 病気で寝込んだとき、痛みがひどいとき、眠れないとき
    ヨーガ: とても疲れた時、生気が無くなったとき、身体が凝ってかたくなっているとき

  • 8週間プログラムの最終週、かつ個人毎のトレーニングの最初の週

マインドフルネス実践への基本的な態度

ここまで、ジョン・カバット・ジンによって開発されたマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)の概要を述べてきました。このプログラムは、日本国内でもいろいろ紹介され、それに基づいたトレーニングを提供している方々や団体、医療機関もあります。それらに参加されると良いのではないかと思います。

郊外の丘で座禅をする姿

一方で、MBSRでなければマインドフルネスではないのかというとそんなことはありません。前回ご紹介した尼僧の智諒さんの実践されている歩く瞑想も、ヨガ教室で指導されている呼吸法や瞑想も、座禅も、気功を通して自分の体を感じることもマインドフルネスの実践と言えそうです。

さらに言えば、今回最後に紹介する「非公式な」方法を毎日続けるだけでも意味があると私は考えています。

その前にジョン・カバット・ジンが著書「マインドフルネスのはじめ方」の中で指摘している「マインドフルネス実践における基本的な態度」を今の私の解釈で要約して紹介します。

  1. 自分で評価を下さない

    物事をありのままに見ること、評価をしていることも評価しない、気づくだけで良く新鮮な眼でものごとをみること。これによって、真の洞察が生まれるでしよう。

  2. 忍耐強くある

    より良い瞬間・時間に向かうことを欲するのではなく、急がずまさに今の時間にとどまることによって、より忍耐強くいられます。

  3. 初心を忘れない

    何事も繰り返すとで、初心を忘れがちです。瞑想についても誰もそれほどたくさんのことを知ってはいないということを念頭におくと良いでしょう。初心をもつことで「退屈さ」すらとても興味深いものになります。

  4. 自分を信じる

    見かけだけの信頼ではなく、自分の知っていること、知らないことを知っていること、自分の直感、自分が所有しているもの、考えやアイデア、自分の身体などを信じられるかどうかを問いかけることが必要です。「知らない」こと自体が、何か信じられるものなのかもしれません。

  5. むやみに努力しない

    今の瞬間にいるときは、行くべき場所はなく、するべきことも一切なく、得るべきものもありません。することは単に今おきていることに気づき目覚めることであり、ヒマラヤの洞窟で40年瞑想することでも、威厳のある指導者の下で勉強することでもありません。

  6. 受け入れる

    どんなことが起きたとしても「ただ受け入れる」べきということではありません。物事がどうなっていて、それらと賢い関わり方をするにはどうしたら良いのかに気づくこと、そのはっきりした視点から適切な行動を起こすこと。例えば慢性的な「痛み」があるとき、その痛みが起こる前のことを思い出して苦しむのではなく、痛みを受け入れることで、はじめて次にすべき適切な行動が見えてくるかもしれません。

  7. とらわれない

    特に、結果に対する執着のなさに似ています。物事をそのままにしておく態度を、目的をもって深めることで、○○でなければならないという声よりも自分がもっと広大であることに気づきます。終わりのない、抑制できない欲望の犠牲にならず、何も跳ね除ける必要もなくなります。現実から目をそらすことでも引きこもることでもニヒルになることでもありません。

非公式のマインドフルネス実践

「瞑想をしているときだけマインドフルで、それ以外ではどうでもよくなっているのなら意味がない」というのは、木蔵シャフェ君子著「シリコンバレー式頭と心を整えるレッスン」で引用されたジョン・カバット・ジンの言葉です。

マインドフルな生活を送ること、忙しい毎日の生活の中でも立ち止まって今ここに注意を向けることが重要です。

慌ただしく横断する歩行者

先回の最後に「普段のトレーニング」として少し言及した、生活のちょっとしたひとコマで行えるマインドフルネスの実践を、木蔵シャフェ君子やチャディー・メン・タンの著書などから紹介します。

  1. 朝起きるとき

    眼を覚ましたら、寝床から起きるまでの動作をゆっくりひとつひとつ意識しながら行います。重力や、手足に力を入れている感覚、頭がふらふらしていることなどを感じます。今日も仕事が大変だ、などの心配を感じても、すぐに体の感覚に戻します。そしてひと呼吸だけ、自分の呼吸を感じます。

  2. 通勤時間

    満員電車に揺られているとき、自転車に乗っているとき、歩いているとき、足の裏、ふくらはぎ、膝、腰、背、肩、腕、首、手がどのように動いているか、電車の揺れや地面の変化にどう反応しているか全身をスキャンして気づきます。息を吸いながら歩く、吐きながら歩く、を感じます。

  3. 信号待ち

    止まっている自分の体に注意を向けて、地面に支えられている自分を感じ、呼吸に注意を向け、視覚、聴覚、皮膚の感覚などを通して、車の音、人や鳥の声、太陽の光、風に揺れる衣服の感じなどに気づき、それを手放します。(名古屋の中心街の交差点でも、街路樹の中に、スズメやドバト、ヒヨドリ、カラス、ときにはちょっと珍しい渡り鳥などが隠れていたりするのです。行き来する人は、気にも留めていませんが。)

  4. オフィスにて

    上司、同僚、守衛、掃除人などにもいつもより丁寧に、相手をしっかり見て挨拶します。エレベータ、エスカレータに乗ったときには、上昇/下降していく感覚を十分に味わいます。自分の机にマスコット人形などを置いてマインドフルネスを思い出すきっかけにすることができます。

  5. 家庭にて

    食事の準備をするとき、掃除をするとき、片付けをするとき、その一つ一つの動作をいちいち確認しながら行います。包丁を持つときも、掃除機にスイッチを入れるときも、まるで人生ではじめてそれらに触れるかのように感じながら行ってみましょう。食事をするときも、レーズンを用いて食べる瞑想をするときのように、一口一口、料理の味だけではなく、色、形、温度、舌触り、硬さなども味わい尽くしてから噛みしめ飲み込みます。

  6. ストレスを感じた時

    手を止め、立ち止まり、ストレスを感じていることに気づき、身体のどこに変化が表れているかに気づき、呼吸に注意を向け、数回深呼吸(交感神経を落ち着けるには、できれば腹式呼吸が良いかもしれません)します。ストレスの引き金になったことよりも、今すべきことに注意を向けます。身体や心が走りだしそうになったら、それをあえてゆっくりと行います。

  7. 何か心地よいことが起こったとき

    食事するとき、愛する人・子供に会ったとき、風呂でホッと一息ついたとき、気持ち良い日差しの中で歩くとき、それらの喜びにすべての注意を向けます。

  8. 人が幸せになることを願う

    職場・学校・街中ですれ違う人、近くにいる人から無作為に2人選び、彼ら/彼女らに対して「この人が幸せになりますように、あの人が幸せになりますように」と密かに願うというエクササイズです。

終わりに

これまで、私が勉強中のマインドフルネスについて、いくつかの本からの抜粋や要約を中心に、私の理解するものを書いてきました。本当に勉強しはじめたばかりなので、思い違いや不足していることが多々あるかもしれません。それでも、こういった内容を診療の中で患者さんに説明し実践を少し後押しするだけで、長年苦しんでいる症状が軽く感じたり、気にならなくなる人たちがいらっしゃいます。その経験から、このような文章を書きました。何かのきっかけになれば幸いですし、間違いや不足をご指摘いただければ望外の喜びです。

患者さんにすすめるだけでなく、自分でも静座瞑想、ヨーガ瞑想をはじめてみました(ボディー・スキャンはどうしても途中で眠ってしまうので苦手です)。最初は3分5分するだけでも大変かなと思っていましたが、少し慣れると30分でも45分でも無理なく行えます。雑念が消えるかと言ったら、もちろん全然消えません。雑念に気づき、雑念が消えないことに気づくことなんだよな、と思いながら続ける毎日です。家族からは、よくそんなに長く瞑想できるね、と言われたりしますが、頭がすっきりした感じがしますし、案外楽しいのです。

今回紹介した非公式の実践からでも良いので、試してみませんか。もしあらためて瞑想の時間を取る気になったら、3分でも5分でも始めてみてください。その経験は多分無駄にはならないと、私は感じています。


【参考資料】

本文内で引用した資料

その他の文献

これらの他にも最近はマインドフルネスを紹介・解説する本が多数出版されています。一度手にとって、読みやすそうな、自分に合っていそうなものを読んでみてください。

( 連載 ”Mindfulness” 全6回 完 )

文責:嶋 芳成