[第5回] マインドフルネスの方法 (2) – 連載 ”Mindfulness”

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近年、マインドフルネスとか瞑想という話題が、マスメディアなどで取り上げられるようになっています。

世界的企業であるGoogle、Yahoo、Appleなどでも、社員の福利厚生の一環としてマインドフルネスや瞑想を取り入れられています。そしてそれによって、生産性が上がったとか、社員の医療費が削減できたという報告があり、最近日本でも脚光を浴びはじめました。資本主義経済下で、世界的な経済競争により人々に余裕がなくなっていく中で、自分を取り戻す方法としてとらえられているようです。

医学的な観点からも研究がすすめられ、人の心や体のさまざまな不調に効果があることが確かめられつつあるようです。当総合診療科でも、患者さんにマインドフルネスを紹介し、実践していただくことで、効果が出たのではないかと考えられるケースが少しずつ出ています。

そこで、マインドフルネスについて勉強中の筆者が学んだ概要を、何回かに分けて、ご紹介したいと思います。

マインドフルネスの方法について、続いて紹介させていただきます。先回同様ここでは主に、ジョン・カバット・ジン著の「マインドフルネス・ストレス低減法」(春木 豊訳、北大路書房、2007/9/5)を要約して紹介します。(一部訳文そのままの引用になっているかもしれませんがご了承ください。より正確には成書をご参照ください。また、成書には実践にあたっての準備方法、心構え、注意点が細かく解説されているので、実践される場合には是非それらを参照するか、あるいは指導者の指導に従ってください。)

静座瞑想

静座瞑想法は、マインドフルネス・ストレス低減法のトレーニングの中心となるものです。

頭と首と背筋を一直線にして、垂直に座ります。椅子に座っても、床であぐらをかいても構いません。椅子の場合は、背もたれがまっすぐで、足が床につくぐらいの高さのものが理想的です。

静座 瞑想

姿勢を正したら、マインドフルネス呼吸法を繰り返します。当初は毎日1回10分間から、何週間かかけて45分間座っていられるようになるまで、少しずつ時間を延ばしていきます。時間が長くなると、その間に体験できる範囲も広がってくるとのことです。この瞑想には次の通り、いくつかの段階が設定されています。

  1. 最初は、呼吸に注意を向けることに集中し、30分以上座っていられるように時間を延ばしていきます。
  2. 少し自信がついてきら、呼吸と自分の心の一体感を味わいながら座ります。
  3. 次に瞑想している間、音だけを聞くようにします。音楽を聴きながらでも練習できます。
  4. 心の中の考えや思いのプロセスに意識を向けます。浮かんでくる思いや考えに注意を向けて、ひたすら観察します。この瞑想にはかなりの集中力が必要なので、最初は2-3分程度のみ行います。
  5. 何もせず、何にも注意せず、ただ座ります。意識を開放して、あるがままの意識をじっと観察します。

静座瞑想は、呼吸を目安にして注意を集中し、一つ一つの瞬間を受け入れる訓練です。身体の不快感を、自分に気づくきっかけにします。瞑想を続けるほど、痛みを抑えたり発散したりする能力が高まるとのことです。「好ましい自分」ではなく「ありのままの自分」をもっと深く理解し、受け入れられるようになり、さまざまな思いや感じを観察して手放すことができ、リラックスしやすくなるようです。

ボディー・スキャン

自分の体の素晴らしさを見直すための実践です。体の外見だとか欠点を言う前に、体があることそのものがどんなに素晴らしいことかということを知るためのものです。何の基準も持たずに、自分の体意識を向けます。

瞑想 仰臥位

  1. 仰臥位(仰向けで寝る姿勢)になり、静かに眼を閉じます。眠ってしまいそうなら眼を開けていてもかまいません。
  2. 呼吸すると、腹部が上下することを感じます。
  3. 足の先から頭まで体全体が一つになって、それを皮膚が包んでいるイメージを作ります。
  4. 左足のつま先に注意を持っていき、左足のつま先に向けて呼吸をします。つま先を通って息が出たり入ったりするかのように感じます。
  5. 両足のつま先から生じる感覚をすべて感じとります。左右差があるかどうか、何にも感じないならそれでも良いので、何にも感じないという感じを味わいます。
  6. 2-3回呼吸をしながら、足の裏、かかと、足の甲、足首、というように注意する場所を動かしていきます。
  7. 注意が他のことに逸れたら、マインドフルネス呼吸法に従い、注意をいったん呼吸に戻し、それからまた先ほど注意を集中していた場所に戻します。
  8. 同じような要領で、順番に体の各部にゆっくりと注意を向けていきます。
    左足先から脚の付け根へ ⇒ 右足先から脚の付け根へ ⇒ 骨盤から腰、腹部、背中、胸、肩へ ⇒ 両手指先から、左右同時に腕、肩 ⇒ 首、喉、顔、後頭部、頭頂部へ
  9. 頭頂部に穴があり、そこから呼吸しているイメージを持ちます。すなわち、頭頂部から入った空気が体全体を通って足先から出ていき、足先から入った空気が、体を通り、頭頂部から出ていくというイメージです。
  10. ボディー・スキャン後は、身体全体が一つになったような感覚の中で、しばらく静かにじっとし、再度体全体が一つになったような感覚に意識を戻します。
  11. 意識的に手と足先を動かし、手で顔を左右に揺り動かしながらマッサージし、眼を開けて、通常の活動に戻ります。

これは、気功の「三線放鬆功(さんせんほうしょうこう)」や自律訓練法にも似た瞑想法です。

ヨーガ瞑想

静座瞑想、ボディー・スキャンとともに「マインドフルネス・ストレス低減法」の瞑想法の三本柱の一つです。様々なポーズをとっているときに生じてくる感覚に注意を集中しながら、ゆっくり体を伸ばしたり強化したりするトレーニングです。

規則正しくヨーガを行っていると、リラクセーションが得られ、筋肉や骨が丈夫になり柔軟性も得られます。じっとしていなければならない他の瞑想とくらべ、動きが入るので魅力を感じる人が多いとのことです。身体の状態が良くても悪くてもヨーガを行うことで、自分自身について学び「全体としての自分」を体験できます。意識的に違う姿勢(ポーズ)を取るようにすると、体の反応や見方も違ってきます。例えば、座った姿勢のとき、手を開いて天井に向けているか、下に向けて膝の上に置いているとか、親指が膝に触れているかというほんのささいなことでも、一つの姿勢から生じる感覚が変わってくるようです。

ヨーガ 瞑想 ポージング

しばしばヨーガ教室では、難しいポーズをとることが目的になったり、他の人と比較したりすることがあるかもしれませんが、これは勧められません。他人と比較してはならず、ポーズをとるために無理をしてはいけません。完璧なポーズをとることが目的ではなく、あるポーズをとろうとしたときの体の感覚、ポーズから解放されたときの体の変化などを感じることが重要です。

ヨーガのさまざまなポーズについては指導者について習った方が良さそうです。特に慢性的な痛がある場合や、筋肉・骨に異常がある場合は、医師や理学療法士の指示に従ってください。

歩行瞑想

歩きながら、歩いているという実際の体験に注意を集中する方法です。

人はしばしば他事に意識を奪われたまま自動的に歩いています。これを見直して、自分がどのように体を動かして歩いているかを感じる練習です。毎日の自分の生活の中で注意を集中する方法として手軽で最適とのことです。

  1. 地面に着けた方の脚に十分に注意を集中する
  2. 地面に着けた脚に徐々に体重がかかる
  3. 他方の脚が上がり、前方に動き、また地面に降りる

心が脚から離れたり、歩いているという感覚から離れてさまよい出したらすぐに意識を歩くことに戻します。他人の目をきにせずに歩ける場所と、十分な時間を確保して行いましょう。また、自分の注意を最大限に集中できる速度で歩きましょう。最初はとてもゆっくりと、慣れてきたら少しずつスピードアップしても良いようです。

参考資料:尼僧・智諒さんの歩く瞑想 *一部改

尼僧・智諒さんの歩く瞑想(page1)
尼僧・智諒さんの歩く瞑想(page2)

正式なトレーニングと普段のトレーニング

以上が「正式な」トレーニングの方法ですが、それ以外にも「ふだんの」トレーニングという練習法を毎日繰り返すことが勧められています。すなわち日常生活の中で、一日に何回か呼吸に集中する、あるいはそのときに自分のしていることを意識するようにするというものです。注意を集中している瞬間・瞬間に湧いてくる感じに気を付けて観察します。これによって日常生活の中で常に意識を覚醒させておくことができるということです。

( 第6回「マインドフルネスの方法 (3) と参考文献」に続く )

文責:嶋 芳成