[第1回] マインドフルネスとは - 連載 ”Mindfulness”

ホームセミナー資料・ノート[第1回] マインドフルネスとは - 連載 ”Mindfulness”

近年、マインドフルネスとか瞑想という話題が、マスメディアなどで取り上げられるようになっています。

世界的企業であるGoogle、Yahoo、Appleなどでも、社員の福利厚生の一環としてマインドフルネスや瞑想を取り入れられています。そしてそれによって、生産性が上がったとか、社員の医療費が削減できたという報告があり、最近日本でも脚光を浴びはじめました。資本主義経済下で、世界的な経済競争により人々に余裕がなくなっていく中で、自分を取り戻す方法としてとらえられているようです。

mindfullness effects

医学的な観点からも研究がすすめられ、人の心や体のさまざまな不調に効果があることが確かめられつつあるようです。当総合診療科でも、患者さんにマインドフルネスを紹介し、実践していただくことで、効果が出たのではないかと考えられるケースが少しずつ出ています。

そこで、マインドフルネスについて勉強中の筆者が学んだ概要を、何回かに分けて、ご紹介したいと思います。

マインドフルネスとは

マインドフルネスとは 日本マインドフルネス学会によると、『今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること』 だそうです。しかし、これだけでは分かりにくいですね。

そこで反対語から考えてみます。”マインドフルネス” の反対語は “マインドレスネス”、日本語では 「心ここにあらず」、「自動操縦状態」、あるいは「上の空」 と言ってもよいかもしれません。したがって、マインドフルネスはすなわちその逆、上の空ではない、心がここにある、意識して自分を操縦していると考えると少し分かるような気がします。すなわち「今、この瞬間に自分の状態、していること、感じていること意図的に注意を向けている」 ということです。

この文章を読んでいるあなたは、たった今、自分がこの文章を読んでいるということに気づいていましたか? それに気づいているならあなたは “マインドフル” な状態だったといえます。言われてみてハタと気がついたのでしたら、”マインドレス” な状態で読んでいた、そしてそれに気づいて今この瞬間 “マインドフル” になったということになります。

さらに『評価をせず、とらわれのない状態で、ただ観ること』のくだりも重要で、今この瞬間の感覚をあるがままに受け入れることもマインドフルネスの目標です。例えば痛みの感覚を考えると、「痛い」と感じた次に「嫌だ」、「この痛みが続いたらどうしよう」といった、”評価” したり、“不安” になったりするのを止めて、ただ単に「痛い」感覚だけを受け入れるということです。

マインドフルな感覚を育てるためには、後に紹介する、呼吸法や瞑想などを毎日実践することが良いとされています。

自転車に乗りたければ練習しますね? それと同様、マインドフルネスの練習をしましょうというお話しです。自転車と同じで、一旦できるようになると、楽にマインドフルな状態に入ることができるとのこと、とても興味深いですね。

歴史的背景と潮流

1960年代から70年代、ベトナム戦争が泥沼化したころ、西洋文明や資本主義経済・社会が発展し、物質的な豊かさを享受しながらも、行き詰まりを感じた欧米の若者たちが、精神世界を求めて東洋文明に興味を持ち始めました。象徴的なのは、ザ・ビートルズがインド音楽や哲学に傾倒したことです。インド楽器のシタールやタブラーを使った楽曲をいくつもリリースしています。

そしてヒッピー族とかフラワーチルドレンと呼ばれる人々が主導した世界的な反戦運動とともに、カウンターカルチャーの一部として東洋的な考え方、座禅、瞑想なども広がっていきました。日本の仏僧もその普及に手を貸したそうです。

Apple社の創業者である故スティーブ・ジョブズ氏はしばしば日本の寺院を訪れ座禅をしていたようですし、大ヒット映画スターウォーズのシリーズの中にも、さまざまな場面で東洋文化の影響が見られます。(勿論、経済大国になった日本の市場での売り上げを意識したこともあるでしょうが。)

STAR WARS には東洋思想が取り入れられている

そのような中、マサチューセッツ大学医学部のジョン・カバット・ジンが、禅宗の禅や、上座部仏教(南伝仏教)の瞑想、インドのヨーガなどを参考にして “マインドフルネス・ストレス低減法” という8週間プログラムをまとめました。彼が1979年に設立したストレス・センターでそのプログラムを実践する中で、このプログラムによって、さまざまな医学的効果が得られることが分かってきました。

Google社では、ソフトウェア・エンジニアであったチャディ・メン・タンが中心となりジョン・カバット・ジンや禅師、瞑想指導者らの協力を得て、2007年からマインドフルネスを用いたSearch Inside Yourself (SIY、己の内を探れ)という社内カリキュラムを作りました。このカリキュラムを社員が受講することで、社員のEQ (Emotional Intelligence Quotient:心の知能指数) が上がり、企業の生産性も上がるということで、それを見て米国大手IT企業をはじめとして、日本でもこのプログラムを導入する企業がでてきたということです。

瞑想 – 実践・トレーニング

では、マインドフルネスとはどうするのか、とても大まかに言うと瞑想をして自分の心を落ち着け、その瞬間・瞬間の感覚を大事にして、悩み、苦しみ、悲しみ、痛みなど自分の感覚・感情をも、そのまま受け入れる練習です。

あぐらをかいて座り、半分目を閉じて… と書くと、ほぼ座禅と同じです。座禅とは違い、警策(きょうさく、けいさく)で肩や背中を叩かれることはないだけではなく、椅子に座ってでも構いませんし、場合によっては立った状態や歩きながらでもかまわないようです。

瞑想の実践

基本的には呼吸に意識を向け、ほかの事を考えてしまったら、それに気づいてまた呼吸に意識を戻すという繰り返しをします。呼吸以外にも、寝ているときや、歩くときの自分の体に意識を向けたり、手を動かすことに意識を向けたり、あるいはヨーガのようにさまざまなポーズをとることで、自分の体の感覚の変化に意識を向けたり、とさまざまな方法があるようです。

最近は、マインドフルネスを説明した教科書や参考書も多数出版されており、様々な実践方法が紹介されています。

( 第2回「マインドフルネスの効果」に続く )

文責:嶋 芳成