[第2回] マインドフルネスの効果 – 連載 ”Mindfulness”

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近年、マインドフルネスとか瞑想という話題が、マスメディアなどで取り上げられるようになっています。

世界的企業であるGoogle、Yahoo、Appleなどでも、社員の福利厚生の一環としてマインドフルネスや瞑想を取り入れられています。そしてそれによって、生産性が上がったとか、社員の医療費が削減できたという報告があり、最近日本でも脚光を浴びはじめました。資本主義経済下で、世界的な経済競争により人々に余裕がなくなっていく中で、自分を取り戻す方法としてとらえられているようです。

医学的な観点からも研究がすすめられ、人の心や体のさまざまな不調に効果があることが確かめられつつあるようです。当総合診療科でも、患者さんにマインドフルネスを紹介し、実践していただくことで、効果が出たのではないかと考えられるケースが少しずつ出ています。

そこで、マインドフルネスについて勉強中の筆者が学んだ概要を、何回かに分けて、ご紹介したいと思います。

マインドフルネスの効果

S. L. SmalleyおよびD. Winston著の「マインドフルネスのすべて」(本間生夫・下山晴彦監訳、丸善出版、2016/12/25)によると、マインドフルネスの実践により次のような効果があります。

  • 慢性的な身体の痛みの軽減
  • 病気に対する免疫システムの向上
  • 愛するものの死や重大な疾患など、人生のつらい出来事への対処
  • 怒り、恐れ、貪欲など、ネガティブな感情の対処
  • 役立たない認知、感情、行動の反応パターンをつきとめる自己の気づきの向上
  • 注意または集中力の向上
  • 幸せや思いやりなど、ポジティブな感情の高まり
  • 対人スキルや対人関係の向上
  • 摂食障害、アルコール依存、喫煙などの依存的行為の減少
  • 仕事、スポーツ、学業などにおけるパフォーマンスの向上
  • 創造性の覚醒と解放
  • 脳の構造のポジティブな変化

これらのいくつかは、勉学や仕事などに役に立つ効果ですし、いくつかは病に苦しむ患者さんに役に立つ効果といえそうです。

マインドフルネスを実践することで、脳の働きが調整され、気持ちを静めることができますが、これを習慣として長く続けることによって、脳の構造そのものも変化することが指摘されています。長い間、成人の脳は変化しないと信じられてきました。

脳機能のネットワーク

しかし近年の脳科学の研究によれば、かなりの可塑性があり、生活習慣や考え方を変えることで、脳細胞間のネットワーク構造や脳細胞の数、体積などが変化することが分かってきました。瞑想することで、脳の構造も変えられるというのは、とても興味深いことです。

うつ病の再発予防効果が認められるというのは、そのような脳の神経生理学的な変化によるものかもしれません。

いろいろな瞑想法や類似の実践

マインドフルネスは、宗教には直接的な関係はありません。最初に述べた通り、禅宗の座禅、上座部仏教(または南伝仏教)のサマディ瞑想やヴィバッサナ瞑想、インドのヨーガなどを参考に研究され定式化されましたが、それらから宗教的な意味合いを取り除き、方法論としてまとめたものと考えれば良いかと思います。

一方、キリスト教、イスラム教をはじめ、およそ全ての宗教には瞑想法があるそうです。一神教の瞑想は、神と一体になる体験を目指しているとか。(違っていたらごめんなさい) マインドフルネスの目指しているものとは少々違うようです。

また「瞑想」と名前のつくものには、インターネットで調べてみるとほかにも

超越瞑想、慈悲の瞑想、誘導瞑想、フルフィルメント瞑想、ゾクチェン瞑想、…

などの名前が挙がります。ガイドに従って行うもの、呪文のような言葉(マントラ)を唱えながら行うものなどがあり、それぞれ色々な効果があるとされています。

他にも、医療に適応されている類似の実践として、

  1. ヨーガ *マインドフルネスの中にもヨーガが取り入れられています
  2. 気功 – 数息法(数息観)、放鬆功
  3. 自律訓練法
  4. 森田療法
  5. 内観療法
  6. ACT (Acceptance and Commitment Therapy)

といったものもあります。

ヨーガ

ヨーガは、ジョン・カバット・ジンの「マインドフルネス・ストレス低減法」の中にもマインドフルネスの方法として取り入れられています。

気功

気功には、数息法(数息観)、放鬆功(ほうしょうこう)といったものがあります。数息法は座った状態で呼吸の数を数える(呼吸に集中する)ものでマインドフルネス瞑想にとても近いですし、放鬆功の中の三線放鬆功は、マインドフルネスのボディ・スキャンにとても似ています。

自律訓練法

自律訓練法は、1932年にドイツの精神科医フーゴ・パウル・フリードリヒ・シュルツによって創始された自己催眠法、リラクゼーション技法で、ストレス緩和、心身症、神経症などに効果があるとのことです。

森田療法

森田療法は、1919年に森田正馬によって創始された精神療法です。その解説の中ではしばしば「あるがまま」という言葉が紹介されており、マインドフルネスの目指すところと近いのではないかと思えます。(森田療法の門外漢の感想です。)

内観療法

内観療法も、日本生まれの精神療法で、浄土真宗系の修行法をもとに1960年代から精神医療現場に導入されているとのことです。

ACT

ACT (Acceptance and Commitment Therapy) はマインドフルネス心理療法の一種で、マインドフルネスをもとに、そこからさらに宗教性を排した方法と理解しています。

これらの瞑想・実践のどれが正しく、どれが間違っているとは言えません。立場や考え方、理論、対象とする疾患などが微妙に異なります。生理学的、脳科学的に研究が進んでいるものもあるようですし、そうでないものもあります。

しかし、各個人が優れた指導者や治療者に行き着くことができるか、その人に合った方法かによって、その影響・効果に差がでるかもしれません。

名古屋大学医学部附属病院総合診療科での実践

名古屋大学附属病院総合診療科でも一部の医師がマインドフルネスを試行的に患者さんに紹介しています。実際には、簡単なテキストを配布しその内容を説明し、いくつかの参考書を紹介しているだけですが、中にはすでに、マインドフルネスが奏効したのではないかと思われる患者さんもいらっしゃいます。

( 第3回「ひとつの到達目標と危険性」に続く )

文責:嶋 芳成