五行説 – 相生と相剋
中国古来の世界観の一つに五行説というものがあります。万物は木・火・土・金・水の5種類の元素からなり、それらは互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環するという考えです。
「木」をこすり合わせると「火」が生じる。「火」は燃えて「土」に還る。「土」の中から「金」が生まれる。「金」を冷やすと表面に「水」がつく。「水」は「木」を育てる。このような関係を「相生(そうせい)」といい、母子関係に例えられます。
一方、「木」は「土」から養分を吸い取る。「土」は「水」の流れをせき止める。「水」は「火」を消す。「火」は「金」を溶かす。「金」は「木」を切り倒す。このような関係を「相剋(そうこく)」といいます。
五臓六腑とは心身全体の生理機能
汗を大量にかいて喉が渇いている時に冷えた飲み物を飲んだ時に、「五臓六腑に染み渡る」という表現をすることがあります。この五臓六腑というのは内臓全体を意味しており、五臓とは、肝・心・脾・肺・腎を、六腑とは、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦(さんしょう:現代西洋医学に該当する臓器はなくリンパ系全般の機能を意味する)を指します。
ただし、それぞれの臓腑は現代西洋医学でいう物質としての臓器ではなく、人間の心身全体の生理機能を分類したものです。この混乱は、江戸時代に杉田玄白らがオランダの解剖書を翻訳する際に伝統医学の概念を無理やり当てはめたことに端を発しています。すなわち「liver」=現代西洋医学における「肝臓」ですが、「liver」≠伝統医学における「肝」ということです。また、伝統医学における各臓腑の機能は、現代西洋医学における各臓器が有する機能を含んでいますがそれがすべてではありません。
五臓および六腑から三焦を除いた五腑も五行説に当てはめられます。肝と胆は「木」、心と小腸は「火」、脾と胃は「土」、肺と大腸は「金」、腎と膀胱は「水」です。そしてお互いの臓腑が相生および相剋の関係性でお互いに影響を及ぼし合っています。
感情と五臓の関係 – 内傷七情
伝統医学では、人間には喜、怒、憂、思、悲、恐、驚という七つの自然な感情があるとされます。人間の生活は七情を適度におりまぜて営まれていますが、その感情が強すぎたり長期にわたったりして生理的な調節範囲を超えてしまうと、体内の陰陽、気血、臓腑機能などが失調し、疾病が発生します。これを内傷七情とよびます。これらの感情も五行説に当てはめられ、対応する五臓の機能に影響を与えます。
怒りすぎると肝を損傷し、胸脇部が張り、頭痛、イライラ、めまい、目の充血などを引き起こし、ひどいときは吐血などの症状が現れます。喜びすぎると心を損傷し、動悸、息切れ、不眠、不安感などの症状を引き起こし、さらに増長すると精神異常を来します。過度の思い(考え過ぎ)は脾を損傷し、脾の運化作用の失調を起こし、腹部膨満感、食欲不振、喉がつかえる、軟便などの症状が現れます。憂い悲しみがすぎると肺を損傷し、息切れ、声枯れ、しゃべりたくない、疲労感などの症状が現れます。恐れすぎると腎を損傷し、腰痛、尿失禁、物忘れ、思考力の低下などの症状が現れます。
現在はストレス社会であり、多くの人がストレスを抱えながら生活をしています。漢方では、過度の精神的ストレスによりどの感情が乱れどの臓腑に影響を与えているのかを見極めて、証に従った処方を行うことで症状を改善します。