総合診療医学の診療、教育、研究によって社会に貢献できる組織を目指して
この度、2026年4月より名古屋大学医学部附属病院総合診療科の診療科長を拝命致しましたことを謹んでご挨拶を申し上げます。

名古屋大学総合診療科は、前進の総合診療部門が1996年に初代 伴信太郎教授によって設立され、二代目の佐藤寿一病院教授がその後を引き継ぎ、本年で30年の節目を迎えます。
名古屋大学医学部のなかでは大変若い講座ですが、日本で設立された大学総合診療部門のなかでは最も歴史のある部類に入ります。日本の大学総合診療部門を牽引してきた伝統ある組織の診療科長を拝命することには、ただただ身の引き締まる思いが致しております。
総合診療科の医師は、特定の臓器を専門とせず、扱う疾患が多様で、診療所・市中病院・大学病院といった診療環境によってその役割が変化することから、その専門性がわかりにくいという指摘を社会から受け続けてまいりました。
しかし一般社団法人日本専門医機構によって2018年に「総合診療専門医」が認定され、ようやく「総合診療医は本当に専門医なのか」といった議論に終止符が打たれました。これは総合診療の道を歩む先人の血の滲むような努力の結晶であると同時に、次世代を担う私たちへ「さて、あなた達はこれからどんな積み重ねができるのですか」という新たな課題を提示しているようにも感じています。
名古屋大学総合診療科は、この課題に対して、診療・教育・研究のそれぞれの観点から以下の挑戦をいたします。
1. 診療について
大学病院の総合診療科は、地域の医療機関や院内の他診療科で対応に難渋するような診断困難例や複数の健康問題を有する患者さんの診療を担うことが重要な役割です。
それは例えば不明熱と呼ばれる原因不明の発熱が長期間続くような状況や、単一の臓器別診療では捉えられない多彩な身体症状によってどのように対応をして良いかわからない患者さんの診療を担当することを意味します。いうなれば「最後の砦」の役割です。
名古屋大学総合診療科では、そのような患者さんの健康問題を緻密な臨床推論能力を駆使して解決に導いてきた実績があります。そして所属科が決まらない成人の希少疾患診療や、西洋医学的な観点ではなく東洋医学的な観点での病態理解を提案する漢方診療でも治療に貢献してきました。それらの実績を糧にして、院内、東海地域ひいては日本全国から頼られる総合診療部門を目指します。
2. 教育について
総合診療医には、上述の「最後の砦」の役割とは異なる重要な役割があります。それは、「地域で働くオールラウンダー」として、地域住民のみなさんに対して子供から高齢者まで、患者さんやご家族、そして地域の健康も含めて包括的に診療を担当することです。少子高齢化、人口減少が進むこれからの日本で、多様な健康問題を包括的に担うことができる総合診療医には社会から熱い期待が注がれています。
「最後の砦」と「地域で働くオールラウンダー」という一見すると相反する総合診療医にも、実は共通点があります。それは患者さんの話を聞くことを重視し、その背景にある要因について医学的な観点だけでなく心理的・社会的観点も踏まえながら、患者さんの考えや関心、生活者としての視点を尊重して診療する姿勢です。そして情報収集方法としての医療面接や身体診察を重視し、課題解決には多職種で連携して取り組もうとする姿勢も共通点として挙げられます。
名古屋大学総合診療科では、どのような場合でも共通する総合診療医としての基本姿勢を大切にし、地域の医療機関と協力して、様々な場所で活躍できる総合診療医を育成していきます。そして医師自身のライフイベントなどによりキャリアを一時中断した医師や、他の専門診療科から総合診療医へのキャリアチェンジを希望するような医師への再研修についても支援します。
3. 研究について
日本の総合診療医学分野は様々な専門分野を横断する学際的領域の性質を有しており、研究テーマは実に多様です。その前提で名古屋大学総合診療科は、世界と伍する研究大学を目指すと謳う本学に所属する診療部門として、総合診療医学に関する研究的発信と総合診療研究者(Academic General Practitioner)の育成に積極的に取り組みます。
特に名古屋大学総合診療科の強みと関連したテーマである、総合診療に関連する医学教育研究、希少疾患診療の拠点としての国内大学や学術団体との共同研究、地域課題解決のための疫学調査研究、総合診療医の診療環境や自己認識に関する国際共同研究を推進します。さらに所属研究者の研究的関心は、地域ヘルスケア、漢方診療、AI、共感、プラネタリーヘルスといった拡がりを見せています。
名古屋大学総合診療科は、所属研究者の関心に応じた研究活動を支援し、地域で活躍する総合診療医の研究活動参加を支援します。関係者の皆様と協働しながら、このような総合診療領域の知のイノベーション創出に積極的に取り組んでまいります。
若輩者ではありますが、皆様のご指導とご支援を、何卒よろしくお願い申し上げます。
2026年4月吉日
名古屋大学医学部附属病院 総合診療科
病院准教授 髙橋徳幸

